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看護師働き方診断

新人看護師で辞める決断をした、試用期間が延長されて本採用になれなかった同期のYちゃんの話。

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「試用期間」に取り残されたYちゃん

会議室で、
「本採用」の辞令を受けた私たちは、

 

念願の顔写真入りの職員証を受け取り、
「丸バッチ」を回収されました。

 

 

 

名実ともに「丸バッチ卒業」です。

 

 

 

喜ばしい反面、
「試用期間延長」となった、
Yちゃんのことが気にかかりました。

 

 

 

数日後、
レントゲン室で、
車椅子の患者さんを移送中の、
Yちゃんに会いました。

 

 

 

Yちゃんは笑顔で、
挨拶を返してくれましたが、
その胸には「丸バッチ」がついていました。

 

 

 

それでも、
きちんと出勤しているYちゃんは、
本当に強いと思いました。

 

 

 

実は、
同期にはYちゃんの他にも数名、
「試用期間延長」となった人がいました。

 

 

 

その中には、
10月1日以降、
無断欠勤をしている人もいる、
という噂を聞いていました。

 

 

 

A大学病院では、
毎年数名の新人看護師が、
「試用期間延長」となります。

 

 

 

しかし、
その多くは1ヶ月程度で、
本採用になることが多く、

 

「試用期間延長」
を経験した看護師は、
後に笑い話にしているくらいでした。

 

 

 

それでも、
当の本人にとって、
「試用期間延長」は重大事件で、
落ち込まないはずがありません。

 

 

 

ロッカールームで泣いていたYちゃんが下した決断

私が本採用になってから、
半月が経とうとしていた頃、

 

日勤が終わってロッカールームに入ると、
勤務を終えたYちゃんが着替えていました。

 

 

 

「お疲れ様」と声を掛けると、
Yちゃんの目は真っ赤で泣いた跡がありました。

 

 

 

「今日で、辞めることにしたの」

 

 

 

そう言いながら、
Yちゃんは紙袋に、
ロッカーの荷物を詰め始めました。

 

 

 

Yちゃんは先程まで、
師長や看護部長と、
面談をしていたそうです。

 

 

 

涙の跡があったのはそのためでした。

 

 

 

事務手続き上は、
2週間後の退職となりますが、

 

様々な休暇を組み合わせて、
明日からはもう出勤しないように、
手筈を整えたということでした。

 

 

 

計画的な退職でなかったため、
一日で全ての荷物を、
整理しなくてはならなくなったYちゃんは、
大きな紙袋を3個抱えていました。

 

 

 

私は「手伝うよ」と言って、
紙袋をひとつ持ちました。

 

 

 

Yちゃんは、
「部長室に白衣を返して来るね」

 

と言って、
小走りで看護部長室に行きました。

 

 

 

看護部長室から出て来たYちゃんには、
もう涙の跡はなく、
いつも通りの、
Yちゃんの表情になっていました。

 

 

 

同期で初めて「退職」を経験したYちゃん

実家住まいのYちゃんは、
車通勤をしていました。

 

 

 

私はYちゃんの車まで、
一緒に荷物を運びました。

 

 

 

Yちゃんをお茶に誘いたいけど、
そんな気分じゃないかな…

 

などと考えていると、
Yちゃんの方から、

 

「ファミレスに行かない?」

 

と声を掛けてくれました。

 

 

 

私たちは車で近くのファミレスに入りました。

 

 

 

Yちゃんは、
「あー、辞めちゃったよー」と、
ちょっと冗談交じりに言いました。

 

 

 

その言い方は、
どこか、
吹っ切れたような感じを受けました。

 

 

 

Yちゃんの口から、
T先輩の名前は、
一度も出てきませんでした。

 

 

 

私もあえて口に出しませんでした。

 

 

 

「部長や師長は、
すんなり辞めさせてくれた?」と聞くと、

 

Yちゃんは首を横に振りました。

 

 

 

Yちゃんが師長に、
初めて退職の意思を伝えたのは、
先週のことでした。

 

 

 

その時は、
自部署の師長・主任との、
三者面談でしたが、

 

二人の上司は、
「もう少し頑張ってみなさい」
と繰り返すだけで、
何の進展もなかったそうです。

 

 

 

一度は引き下がったYちゃんでしたが、
やはり「もう耐えられない」と、
今日再び師長に退職を申し出たそうです。

 

 

 

そして、
看護部長も交えた話し合いに、
なったのでした。

 

 

 

部長も師長も、

 

「今辞めたらもったいない」

 

「今までの努力が無駄になる」

 

「まだ就職して1年も経っていないのだから、
他に行っても通用しない」

 

などと諭したそうです。

 

 

 

それでも、
退職の意思を曲げないYちゃんに、

 

部長は、

 

「他の病棟に異動させてあげる」

 

と言い出したそうです。

 

 

 

その発言により、
部長もYちゃんに対する、
T先輩のいじめを、
把握していたことがわかりました。

 

 

 

今や、
YちゃんがT先輩から、
いじめを受けていることを知らない人は、
看護部には一人もいない状態でした。

 

 

 

そんな中で、
部長の耳に入っていないはずが、
ありません。

 

 

 

師長も主任も、
そして看護部長も、

 

YちゃんがT先輩から、
執拗ないじめを受けていることを、
知っていながら見て見ぬふりをし、

 

いざYちゃんが退職の意思を示した途端、
「何とかする」と言い出したのです。

 

 

 

Yちゃんは、

 

「これまでの努力が無駄になっても、
他で通用しなくても、
この職場にいるよりマシだ」

 

と心底思ったそうです。

 

 

 

「辞めたい」と言うまで何の対処もしてくれず、
それでいて辞めようとすれば、
引き止めるという部長・師長の行為は、
Yちゃんが不信感を抱くのに充分でした。

 

 

 

その後のYちゃん、そして私は…

2ヶ月後、
Yちゃんは自宅近くの公立病院に、
就職が決まりました。

 

 

 

年度途中でも公立病院に就職できること、
1年目でも転職できること、
を知った私たち同期は驚きましたが、
Yちゃんの新たな出発を応援しました。

 

 

 

公立病院に転職してからのYちゃんは、
以前のように明るく元気な姿になっていました。

 

 

 

人間関係にも恵まれたようで、
職場の先輩や上司と飲みに行った話などを、
聞かせてくれました。

 

 

 

後日談ですが、
10数年後、
Yちゃんはその公立病院で主任になりました。

 

 

 

Yちゃんの退職・転職を、
淋しいようなホッとしたような、
複雑な気持ちで見ていた私でしたが、

 

数ヶ月後、
まさか自分がYちゃんのいた、

 

「4B病棟」

 

に異動になるとは思ってもみませんでした・・・

 

 

 

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